セクハラは男女雇用機会均等法に定められています。しかし、パワー・ハラスメントという言葉の正式な定義とか要件はまだ存在していません。定義なく無制限に使われる恐れがあります。

大前提として、上司は業務について部下を指導する権限と責任を持っているということ。パワー・ハラスメントはこの大前提を侵害してはならないのです。

そうは言っても相手に与える衝撃にはいろいろあって、暴行・傷害などの身体的な攻撃に始まり、脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言による精神的な攻撃も含みます。あるいは隔離・仲間外し・無視といった社会的攻撃もあり得ます。

業務上の攻撃もり、明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害をしたり、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないのもパワー・ハラスメントのようです。私的なことに過度に立ち入って攻撃しても同じパワー・ハラスメントです。

これらの問題は労働者と労働者の間の事案として発生するのが普通なので、企業の法令遵守のためにコンプライアンス基本方針としてガイドラインや指針を定めて、法律上を遵守する企業も増えてきました。

その中に人として守るべき社会的倫理や企業倫理も含まれ、セクシャル・ハラスメントなどに対応するために、男女雇用機会均法が事業主に講ずべき措置を求めた項目として育児・介護休業に関するハラスメントや妊娠・出産に関するハラスメントなどを含みます。

このように法的措置が加えられたセクシャル・ハラスメントとは違ってパワー・ハラスメントは声高に言われる程には釈然としない部分があります。その感じはどこから来ているのでしょうか。これを探るためにも、企業内で上司の言動がパワーハラスメントになる一般的な要素4つを確認してみましょう。

まず上司の立場に基づいている言動であること。これは「自らの権力(パワー)や立場を利用した嫌がらせ」になるようです。次に職務上の必要性に基づいていないとハラスメントの要件として成立します。それに、人格の尊厳を傷つける内容であることが要件になっており、「いじめ、嫌がらせ」や差別的言辞などが該当します。

そして執拗に継続して行われる言動であることはわかりやすい。さてここで不透明さを残している要件は、「人格の尊厳」とはなんだろうか、という点です。基本的な考え方を作っている根本的なものを説明すれば次のようになります。

哲学者のカントによれば、人間を手段から区別するのが人格の尊厳ということになります。ものは所有、利用そして(一方的)支配」の対象で、道具にされますが、人間は道徳法則の主体です。人格性もつのは神聖な主体ですから、自己決定権を尊重することが必要です。

つまり部下に強要するのは人格の尊厳を傷つける行為がハラスメント的言動になります。例えば必要以上に相手の知的程度を非難する言動だったり、自己決定の機会を奪う言動は判定されてしまう危険があると覚悟が必要です。

そうするとパワハラの類型もなんとなく分かってくるように感じます。労働環境を悪化させることで、機会を奪ったり、多数の面前で叱責するのも必要以上でしょう。言葉の使用にも気をつけたいですね。給料泥棒呼ばわりしたり、退職勧奨や脅しと取られる言葉には要注意でしょう。

部課内に無視の命令を下す社会的攻撃も意図的に評価を下げるように操作するのと似ていますし、困難な仕事を与えて低評価にすることや過剰なノルマなども該当するでしょう。

訴えを聞き流すのもパワーハラスメントだとするのは、個の存在を重要だと考えましょうということに違いありません。職場の環境改善に繋がる措置ということになります。